よみもの よみもの

〈wagayoのひとびと〉ふちかみ かすみ

渕上さん メイン写真

福祉の働き方は、利用者に直接ケアをする介護職ばかりではありません。〈wagayoのひとびと〉コーナーでは、幅広くいろんなスタッフに光を当てていきます。

「食」の観点から、職員や利用者、施設全体を支える厨房・管理栄養士も福祉のお仕事。今回は、2022年3月からながよ光彩会の仲間入りを果たした、管理栄養士の渕上果純さんをご紹介。不思議なご縁が次々と連鎖して、長与町へとやってきました。「楽しい!」「気になる!」と心が弾む方向へと突き進む、渕上さんの新しい“ながよライフ”を取材しました。

可能性が広がる予感のするほうへ

渕上さんがながよ光彩会の存在を知ってから、そして出会ってからは、まだ実は1年も経っていません。物語の始まりは、2021年9月にまでさかのぼります。

ーながよ光彩会と繋がったのは、どんなきっかけがあったんですか?

渕上「ここへ来る以前は、福岡の老健と特別養護老人ホームで働いていました。去年の9月頃、『自分のやりたいことって何だろう?』って悩んだ時期があって、地元の先輩に相談する機会があったんです。いろいろと話していく中で、『農業』や『食育』に興味があるかも!という流れになりました」

渕上さんの佐賀の実家には畑があり、農業はいつも近くにありました。
職業・栄養士として「私のやりたいことって何だっけ?」と、漠然とした焦りに直面していた渕上さんは、自分の興味関心がどこに向いているのかを再確認しようとしていたのです。

渕上さん トーク風景

「とりあえず、何か行動を起こしてみよう!」

渕上さんはそう思い立ち、唐津で面白い調理スタイルを実践していると評判の福祉施設に、ボランティアをさせて欲しいと問い合わせをしました。そうして訪れたのは、「看護小規模多機能むく」。代表の佐伯さんが迎え入れてくれました。

そして、さらに佐伯さんから紹介してもらったのが、長崎にあるながよ光彩会と、理事の貞松さんだったのです。そこはなにやら、高齢者でも食べられるお餅作りをしているらしい…!「食」を通じた福祉のあり方が存在すること、様々な取り組みをする施設があることを知り、渕上さんの世界は広がっていきました。
(参考:「喉に引っかかりにくい餅考案 サトイモ混ぜ試行錯誤」長崎新聞)

後日、み館で行われた秋のイベント「アートウォーキング in ながよ」にも誘われ、弾丸で福岡から長与へ。

渕上「いろいろハプニングがありましたね(笑)。長崎に到着したものの、長与町に向かうバスが全然来なくて…。このままだとイベントに間に合いそうになかったので、み館まで徒歩で行きました(笑)」

渕上さん ミックンに入ってる
気付いたら、長与町のマスコットキャラ「ミックン」の着ぐるみに入ってイベントを盛り上げることになっていたり…。

長崎市内から長与町まで徒歩で……。想像しただけでも波乱の幕開けですが、この1日の濃密な体験が、渕上さんにとって今までにない刺激とワクワクを感じるものでした。出会う人々、手作りのイベントグッズ、受け取る刺激。「こんな福祉事業に関わっていたら、こんな人たちと繋がることができるんだ!」。渕上さんは当時の気持ちを振り返ります。

ーいきなり知らない土地でいろんな人と出会ってみて、どうでしたか?

渕上「純粋にワクワクしたっていうのが一番大きいです。普通の日常生活の中では、現在や過去の話ばっかりだった。けれど、“これから”に目が向くようになりました。ここにいれば、これからどんな人と出会えるんだろうって」

渕上さん イベントの様子

「とにかく動いてみて。『あ、この人!』『こっちだ!』て思う方向に進んだら、自然と繋がっていくよ」

地元の先輩から言われた言葉でした。むくの佐伯さんの話を聞いた時に、すぐにその通りに実践したことで、この言葉の意味を身をもって実感した渕上さん。たくさんの刺激と出会いを経験して、福岡へ戻りました。

そして、ちょうどこの時期・このタイミングで、勤めていた職場での環境の変化があり、転職を決断。渕上さんは、いつもは慎重派で、何かきっかけがないと次に進めないことが多いそうです。

しかし、今回はそんな自分をひっくり返したようなスピード感と、大胆な行動力を発揮しました。「まだ私は経験も浅い。もう一度栄養士としての基盤を固めるためにも、再スタートを切りたい」。そんな気持ちと、長与町の1日で感じた可能性を信じて、約半年後にながよ光彩会の仲間入りを果たしました。

ゆる〜い栄養士さんが薦める、“おきらく食育”

福祉施設における管理栄養士とはどのような役回りなのでしょうか?ここからは、渕上さんのながよ 光彩会での働き方をお尋ねしたいと思います。

ー厨房だけじゃなく、入居者さんと顔を合わせることもあるんですか?

渕上「入居者さんが生活しているユニットを訪れるタイミングは、配膳・下膳の時くらいしか無いんです。だから、食事の時間に合わせて訪問して、できるだけコミュニケーションを取ることを心がけています」

渕上さん 配膳の風景

「私ね、ここをやめようと思っていたんだけど、あなたがいるからもう少しここに居ようと思うのよ」と涙を流して手を握ってくるおばあちゃん。手作りのバースデーカードを気に入ってくれて、こっそり服の中へ大事に隠していたおじいちゃん。

明るく、笑顔が印象的な渕上さんは、早くもいろんな入居者さんと関係を深めているようです。

渕上さん 入居者さんとの交流の様子

渕上「ユニットを訪問した時は、管理栄養士の視点から『食事の形態がその人に合っているか』『食事中の姿勢が崩れて、誤嚥しやすい状態になっていないか』などの観察をしています。また、それだけでなく、『今日のご飯は口に合う?』とか『好きな食べ物は?』といった、その人の食に関する情報を集める機会にもしていますね」

高齢になるにつれて食事が取りづらくなっている入居者さんの、食事環境や栄養面を管理するのが管理栄養士という仕事です。

特養を利用されている入居者さんは、人生の最期を過ごされる方がほとんど。渕上さんは、その人らしい生き方を食事の面からアプローチするため、何気ない日常的な会話をたくさん積み重ねて、「何を求めているのか?」「何をする時に楽しいのと感じるのかな?」を考えているようです。

さて、仕事における渕上さんの顔だけにとどまらず、ここからはいろんな一面を探ってみます。

皆さんはレコードやCDの「A面/B面」をご存知でしょうか?これは、私たち人間の性格やパーソナリティを表現する際にも使われることがあります。普段、職場や学校などで見せている表の顔(A面)と、プライベートや別のコミュニティの中で見せている違った裏の顔(B面)。渕上さんにも、B面はあるのでしょうか?

渕上さん サイコロトーク

ーかがやきの施設の中で見せる顔をA面としたら、「こんな一面(B面)も私なんだよ」っていうのはありますか?渕上さん、あんまり裏表なさそうですが(笑)

渕上「いつもこんなテンションなので、どうでしょうね(笑)。強いて言うなら、“家ではぐうたら”ってところですかね。栄養士だから『料理得意なんでしょ?』って聞かれますけど、丼におかず乗っけて食べちゃってます(笑)」

元々、性格的にも几帳面ではない上に、一人暮らしするようになってから大雑把な部分が加速。その一方で、渕上さんは「食育」に興味があると言います。つまり、“丁寧な暮らし”をイメージする食生活ではなく、「とにかくご飯を食べよう!」という気楽でフランクな食育が性に合っているみたい。

家庭環境の問題もありますが、普段から朝ごはんを食べない子どももいます。渕上さん自身も同じような経験があるので、そんな気持ちも分かるのだとか。今は、佐賀のスポーツチームに食育事業で関わらせてもらっており、少しずつ試行錯誤を進めていく段階のようです。

ただ、料理が食卓に並ぶ前の、食材の“生産”にはやはり関心がある渕上さん。

渕上さん 事務作業風景
「野菜の種とか花とか、カルタにして遊びながら覚えられたら面白いかな〜とか、いろいろ妄想してます!」

ー実家が農家だということですが、昔から農業は好きだったんですか?

渕上「いや、その頃からやりたかったかといえば、全然そうじゃなくて。むしろ親から手伝えって言われても、いやだって断ってました(笑)。でも、今になって農家さんと関わるようになってきて、農業いいなぁって感じるようになりました。素の自分で取り組めるのは、やっぱり土に触ることや食のこと、人と話すことなのかなって見えてきましたね」

現在も、長与町で始まったグリーンツーリズムの下岡農場さんのお手伝いに行っているのだとか。

渕上さん 畑での作業の様子

(参考:「大きなタマネギ取れた! グリーン・ツーリズム始まる 長与」長崎新聞)

「興味のあること、何かに繋がりそうなことには、どんどん頭を突っ込んでいきたい」と意気込みます。自分にできることを見つけるために、そして自分にできることを増やすために、渕上さんは貪欲に活動します。

素敵なわたしのながよライフ

最後に、新しい長与町での暮らしぶりを訊いてみました。

渕上さん 通勤路の風景
通勤路のお気に入りの風景

ー知らない土地での新生活、3〜4ヶ月くらい経ちますが、いかがですか?

渕上「会う人会う人、みーんなやさしくて、お母さんみたいな人たちに助けられてます。通勤路からもう楽しくて。朝も自転車とか徒歩で通勤しているんですけど、そこで会うおばちゃんとか、ウォーキングしてるおじちゃんと仲良くなったりしてますね(笑)」

人と話すことが大好きな渕上さんだからこそ、新天地でもその個性を発揮。ながよ光彩会と、福祉事業を行う別の企業とのタイアップにおいて、栄養士の視点から料理や食材へのアドバイスを行うなど、外部とのパイプを繋げる窓口としての役割も期待されています。

渕上さん トーク風景

「来て良かった。そうとしか思えないです」

渕上さんは心からながよライフを楽しみ、充実しているようでした。将来に悩みながらもやもやとしていた時、一歩踏み出して未知の世界に飛び込んでみたことが、渕上さんに大きな転機とステキな出会いをもたらしてくれました。

これからも、そんな明るい人柄とフットワークの軽さでまちの人と繋がり、「食」を通じた新しい物語を呼び込んでくれそうな予感がします。

よみもの
一覧